弊社では、ゲームアプリ等の翻訳サービスも行っておりますが、その翻訳プロセスの中でも非常に重要になるのが「世界観」です。
この「世界観」を多面的に、且つ深く理解しないと「お客様が本当に望む品質」を作ることが難しいと考えています。
そこで今回はこの「ゲームの世界観」というテーマを、翻訳という側面から考察したいと思います。
コンテンツ
ご依頼時に多い「世界観」の翻訳やリライト作業
冒頭でお伝えした通り、まずゲーム開発会社のお客様とお話しすると、必ずと言っていいほど出てくるフレーズがこの「世界観」というキーワードです。お客様からはこのようなご相談があります。
「今回のゲームアプリの世界観を踏まえて翻訳してほしい」
「自社スタッフが翻訳したが、ゲームの世界観を理解した上で文章をブラッシュアップしてほしい、リライトしてほしい」
お客様のおっしゃっている「世界観」とはいったい何のことを指しているのでしょうか?
これはゲーム業界共通の用語で、誰もが同じ意味で使っているのでしょうか?それとも会社ごとに違うのでしょうか?そして翻訳会社としてどう受け止めるべきキーワードなのでしょうか?
これを理解しないと、本当の意味で、上記のお客様のご要望に対応することができません。
「ゲームの世界観」とは何か
「世界観」という言葉を検索するとこのような説明があります。
Wikipedia:世界観
世界観(せかいかん、独: Weltanschauung)とは、世界を全体として意味づける見方[1]・考え方のことである。人生観より広い範囲を包含する[1]。単なる知的な理解にとどまらず、より情意的な評価を含むものである[1]。情意的な面、主体的な契機が重要視される[2]。
この説明ですと仰々しい側面は否定できません。いささか哲学的です。しかしどうやら「ゲームの世界観」という言葉を理解するには、これだけだと完全にマッチしないようです。
次に「ゲームの世界観」で検索した場合、以下のようなサイトが表示されます。
https://inside.dmm.com/entry/game-concept-art
ここでは、「コンセプトアート」というキーワードも登場します。
Togetter:「ゲーム性」と「世界観」、重要なのはどっち?
こちらは、世界観そのものの説明ではありませんが、「ゲーム性」という点もポイントだと述べています。確かにそうですね。
ここで改めて考えてみましょう。
一体、お客様はどういった意味で「世界観」という言葉を使っているのでしょうか?
色々なサイトを見てみても、どうやら「世界観というのはこういうことだ」という明確な答えは無いようです。
そうではなく、どちらかというと、「世界観」とはこういうものだと断定するのではなく、多くの要素が集まった集合体が「世界」を作っていると考える方がしっくりきます。
それらひとつひとつの要素がそれぞれ相互にどのように作用し合うかという部分で、求めるべき「世界観」が決まるのではないでしょうか。
例えば、以下のような要素です。
これらを無限に組み合わせていくことで独特の世界は生まれます。そしてその世界を見て、どう感じるか/どう感じてもらいたいかが「世界観」なのではないでしょうか。
ということは、Wikipedia にも記載されているやや哲学的な「情意的な面、主体的な契機が重要視される」という部分も間違っていないということになります。
つまり言い換えると、世界観というのは、実際には明確な定義がなく、「主観的な感覚が優先されるもの」だということです。人々がまたはそのゲームタイトルを見た時、デザインを見た時、そのゲームのストーリーやキャラクターをプレイしてみた時に認知する「感覚」だということです。
なお、「世界観」の「観」とは「観念」のことですが、この「観念」というのは哲学用語です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/観念
観念(かんねん、英: idea、希: ιδέα)は、プラトンに由来する語「イデア」の近世哲学以降の用法に対する訳語で、何かあるものに関するひとまとまりの意識内容のこと。元来は仏教用語。
Weblio 観念(かんねん)とは何?
https://www.weblio.jp/content/観念
人間が意識の対象についてもつ、主観的な像。表象。心理学的には、具体的なものがなくても、それについて心に残る印象。
このように「主観的なもの」が観念だとすれば、その「世界観」というのは、ゲームのキャラクターや彼らが存在する世界、人々の性格や特徴、法、生活などあらゆるものごとが、あるひとつの方向性でまとまった「状態」であるとも表現できます。
ただし個々人の主観だけに左右されないためのある一定の枠組みは必要であり、それこそが圧倒的に作り手のクリエイティブなアイデアが具現化していなければならない「世界」なのでしょう。
「ゲームにおける世界観」とは、つまり非常に主観的な要素を含んでいるのだと言えます。
「世界観」を踏まえた文章の翻訳やリライト
では、これらを踏まえて「翻訳やリライト」について考えてみます。
文章には「好み」があります。例えば、翻訳としては正しくても、「読み手の好みに合ってない」と言われることは少なくありません。
また、ある文章を書きかえた場合(リライト)でも、その後の文章が洗練されているかどうかには、様々な基準があります。
例えば、「翻訳くささが抜けている」とか、「忠実ではないけれど意味を捉えて流暢になっている」とか、「冗長な表現が改善されている」などです。
しかし、大前提として、そもそも文章に100点満点はないのです。その文体が好きな人、嫌いな人は必ずいるからです。村上春樹が好きな人もいれば、肌に合わない人もいるわけです。それはどちらも間違っていないはずです。
では、一体どうやって世界観に基づいた文章(セリフなど)がきちんと翻訳されている、リライトされていると判断するのでしょうか?
それを最初に判断するのは誰なのでしょうか?
そうです、それはもちろん原稿を書いたシナリオライターです(社内、社外問わず)。
※ユーザが読み、判断、評価できるのは、製品がリリースされてからの話です。
では、そのシナリオライターによって書かれた文章(仮に日本語とする)を、英語に翻訳する際、オリジナルの日本語文章を正確に翻訳することはできるのでしょうか?または、リライトすることはできるのでしょうか?
答えとしては「できる」と言えます。そういう人材は確かにいるからです。しかし、仮にできたとしても非常に難易度の高い作業のため、限られた人材だと言えます。
これまで説明してきたように「世界観」は主観性の高いものだからです。その登場するキャラクターの性格、価値観、それに基づく成長過程、経験から出る口癖(特にセリフなど)を完全に理解するのは困難だと言えます。もしかしたら、開発会社内でも統一の世界観を持つというのは大変なこともあるのかもしれません。
世界観を理解していれば、翻訳やリライトはできるはずです。しかし、その「理解」が「主観的」な要素が強くなってしまう場合や、世界を構成する要素が非常に多く、すべてを理解することが難しい場合、読み手からは「理解していない」と判断される可能性もあります。
これはまさに文章における「好み」と近いものがあると言えます。
文章はそのゲームの品質を大きく左右する重要なパーツ
このように、ゲームの世界観を理解して行う翻訳やリライトは、非常に難易度の高い作業だということが分かると思いますが、だからこそ「文章」が非常に重要なパーツだと言えるわけです。
これらの文章はそのキャラクターや世界観の「意志」そのものだからです。例えば、「このキャラクターはこういう話し方を好む」「この主人公は、こういう口癖や語尾になる」というのは、事前に設定があるはずです。
この部分をアウトソースしていくのは、実は簡単なことではありません。
ゲームプレイヤーは、翻訳されたそのキャラクターの言い回しや口癖などを「世界観」として捉えて楽しむわけですから、そこに向かっていくためには、背景(=世界観)の理解なしには難しいでしょう。
ネイティブチェックとの違い
一方、「自社で翻訳したけれど、英語として正しいかどうかチェックしてほしい」というリクエストも少なからずあります。しかし、ゲームに限っては、単純なネイティブチェックにならないこともあります。
弊社の場合、一般的なネイティブチェックは以下のように規定しています。
また、「ネイティブチェックの真実」という記事も掲載していますのでよろしければご覧ください。
つまり、お客様の本当のニーズは「世界観を踏まえて英文をチェックしてほしい」ということだったりするわけです。
こうなると弊社の定義するネイティブチェックの範疇には入らず、どちらかというとリライトのような作業になってしまう可能性があります。もちろんこれらは個別に精査した上で切り分けが必要ですが、切り分けたところで実現できるかどうかというのは分かりません。
例えば、「この要素とこの要素を満たしていれば、このゲームの世界観になる」という基準が言語化されていなければ、単純に感覚的な話になってしまうということです。
ゲームの世界観を守っていくために
とはいえ、お客様の理解度を100とするなら、90や95くらいまで背景を理解して翻訳したり、リライトすることができる人も(多くは無いですが)存在します。
ですから、弊社としては無料トライアルを実施し、お客様の望む「世界観」にできるだけ近しい品質を作り出せる人をアサインしたり、ゲームの背景やキャラクター設定など詳細にお伺いしたり、また場合によってはトレーニングに参加したりと、「そのゲームの世界に入っていく」ことを愚直に繰り返すしかありません。
確かに時間がかかるかもしれませんが、しかし、せっかくアウトソーシングし、コストも時間もかけていくのであれば、この点は手を抜かずに取り組む必要があると考えています。また一方で、単純な「テキスト文章」ではなく、キャラクターの行動に直結するものなのですから、そういった点からもこだわらなくてはならないのではないでしょうか。
「世界中のプレイヤーのために」
その上で、開発プロセスにおける LQA をしっかり行い、ギリギリになりがちなスケジュールをやり繰りしていくことで、日本語版だけでなく英語や中国語などの多言語版ゲームも高い評価を受けるわけです。
私たちは、お客様の持つ「自分たちが開発したこのゲームを、世界中のプレイヤーに体験してほしい」という想いを痛切に感じています。
だからこそ、その「世界観」を理解した上で、弊社の翻訳サービスをご提供できればと考えています。
- どのようにアウトソーシングするのか?
- そもそも、本当にアウトソーシングしていいのかどうか?
このような視点を持って弊社のような翻訳サービスをご利用いただくことで「ゲームの世界観」を保持しながら、世界に向かって発信することができるのではないでしょうか。
トライベクトル株式会社 代表取締役。会社経営 20年目。翻訳・ローカライズ業界25年。翻訳・ローカライズ実績年間10,000件以上。
「言語コミュニケーションサービス」という領域で、主に翻訳/通訳/ローカライズ、インバウンド対応、コンテンツクリエイティブ、言語学習/研修サービスを提供している。