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バックトランスレーション(逆翻訳)のメリットとデメリット

機械翻訳、ポストエディット、翻訳支援ツール、多くの MLV(マルチランゲージベンダー)やクラウド翻訳など、翻訳サービスには様々な形態が存在します。

翻訳の功と罪

 

そんな中、「バックトランスレーション」という手法があるのはあまり知られていません。日本語にすると「逆翻訳」と呼ばれます。(これに対し、通常の翻訳を「順翻訳」と呼ぶこともあります)

この「バックトランスレーション」というものは、いったいどういうものなのか、そしてメリット、デメリットや利用する際の判断基準について解説します。

バックトランスレーションとは何か

バックトランスレーションは、上述のように「逆翻訳」と言われますが、具体的には一度翻訳したものを使って、元の言語に翻訳しなおす作業のことを指します。

例えば、日本語から英語に翻訳する際、その訳文(英語)が原文(日本語)の意味をきちんととらえて翻訳されているかどうかを検証するために、訳文(英語)を日本語に翻訳します。

この訳文(英語)から原文(日本語)への翻訳プロセスをバックトランスレーションと言います。

バックトランスレーションの意味と目的

バックトランスレーションの意味や意義、その目的は何なのかを知っておく必要があります。この手法自体、翻訳プロジェクト、ローカライズプロジェクトの中でどういう位置づけのものかを把握する必要があります。

バックトランスレーションの目的は 3つほど挙げられます。

  • 訳文の正確性を確認するため
  • ターゲット言語が分からない場合のチェックやレビューのため
  • 翻訳としての妥当性、好みなどの恣意的なものかの見極めを行うため

それぞれ解説します。

バックトランスレーションの目的①:翻訳の正確性

翻訳の正確性を確認するためにバックトランスレーションを行うというのは、どういう意味でしょうか。これはつまり「日本語の単語が正しい英単語に置き換わっているか」という確認です。

また、(あえて挙げるなら)文法的にも「主語+目的語+述語」という日本語ならば、「主語+述語+目的語」という文法構造で英語が成立しているかどうかということでしょう。

バックトランスレーションの目的②:ターゲット言語でのチェックができない

例えば、日本語から中国語へ翻訳したケースがあるとします。発注した企業は、これを使ってビジネスを展開する訳ですが、翻訳会社から納品された中国語の訳文のチェックが社内で行うことができない場合、一度日本語に逆翻訳して、きちんと翻訳されているかどうかを確認するために使用されます。

バックトランスレーションの目的③:訳文の妥当性や好みなどの恣意性の見極め

①と重複しますが、こういう目的でバックトランスレーションを行うケースもあります。納品された訳文が妥当なものであるかということを検証しようとするわけですが、文章には「好み」があります。実際のところ、これらはバックトランスレーションをしても確認することはできません。あくまで翻訳後の言語の文章として好きか嫌いかという話だからです。

このように、一言でいえば、訳文としての「違和感」があるかどうかということを、バックトランスレーションによって見極めようとしているわけです。

しかし、残念ながらこれらはあまりうまく行きません。

バックトランスレーションのメリットとデメリット

ではなぜうまく行かないのでしょうか?

実は、厳密にはすべてがうまく行かないのではなく、上手く行くものとそうでないものが混在すると言えます。

バックトランスレーションのメリット

上述のように、様々な目的をもってバックトランスレーションを行う訳ですが、この中で上手く行くのは論文など専門性の高いドキュメントに限定されるでしょう。

「A という単語が B という訳語に正確に翻訳されているのか」を確認するために行なうためのバックトランスレーションは有効だと言えます。

バックトランスレーションのデメリット

しかし「ちゃんと翻訳されているかどうか」といった、(どちらかというと)表現力をお求めになる場合には、バックトランスレーションは不向きでしょう。Web サイトやプレスリリース等をバックトランスレーションしたところで恐らくほとんど意味はありません。

仮に、日本語→英語→日本語 というプロセスを辿った場合でも、実際に使用するのは英語であって、英語として自然なものか、意味が通る訳文かどうかを判断できないと意味がありません。

「日本語では大丈夫だった」という事実は、イコール「英語として大丈夫」ということにはならないからです。

また、言語によってもバックトランスレーション自体が意味を成さないケースもあります。韓国語のような表音文字などは、その文字自体に意味を持っていないため、バックトランスレーションをしてもほとんど意味がありません。

そういった点からも、第一義的には翻訳後の言語がターゲット言語なのですから、そのターゲット言語として訳文を評価、検証すべきでしょう。

バックトランスレーション使用時の注意点

これまで述べてきたように、バックトランスレーションの使い方は限定的とはいえ、その判断基準を持って行うことである一定の結果を得ることができます。その基準とは、「効果の出るドキュメントと効果の出ないドキュメントを理解する」ことです。

例えば、論文や特許書類など、単語の正確性が極端に求められる場合には、バックトランスレーションは有効です。決まった用語を使用なければ、ドキュメントの正確性が問われてしまうような場合などは、バックトランスレーションを使用することができます。

そういった基準を持たずに、どんなドキュメントでもバックトランスレーションをすることは、現場の混乱を招くばかりか、今後は「バックトランスレーションをしてもクレームにならない訳文を作る」ことが目的となり、逐語訳や直訳的な文章が増えてしまうかもしれません。その訳文が使われる場所や、対象読者のことが置いてけぼりになれば、伝えたいことも伝わりません。

まとめ

これまで述べてきましたが、バックトランスレーション自体を否定するものではありません。しかし、残念ながら限定的な使い方しかできないのもまた事実です。

そしてもしビジネスにおいて「正確な訳文を」「伝わる訳文を」と考えるのであれば、バックトランスレーションの前に以下の点に注意することがより有効だと思われます。

・バックトランスレーションする時間を取るより、その時間をしっかり最初の翻訳作業にあてる

・品質を気にするなら専門用語集やスタイル、事前のトレーニング、研修などを開催する

用語集構築・運用

・翻訳後にネイティブチェックのプロセスを増やす

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いかがでしょうか。

バックトランスレーションを行う際には、これらの点を含めて正しい判断基準をもって行うようにしましょう。