既存の枠組みが壊れていく過渡期
今回は、映像翻訳と産業(実務)翻訳との垣根が壊れつつある点について、記載したいと思います。
弊社では「テープ起こし+翻訳+字幕編集」までを一式 20,000円(税別)でご提供する字幕翻訳プラン [FUNSUB]があります。
字幕翻訳プラン FUNSUB
本プランは、大変リーズナブルであるため、海外本社で制作された動画をマーケティングツールとして、また PR やプレゼンに使用したり、展示会で流したりと様々な使い方をされていらっしゃるお客様が多くいらっしゃいます。
弊社ではこのようなニーズに数多く応えるべく「字幕翻訳プラン」をご提供しておりますが、今回はそこから得られた知見をご紹介したいと思います。
誰もが動画を撮り、編集できる時代がやってきた
Youtuber(ユーチューバー)と呼ばれる人々が徐々に増えています。自分で撮影した動画を Youtube にアップロードして閲覧者数を増やして広告収入を得るという流れが生まれつつあります。
Youtuber とは
https://ja.wikipedia.org/wiki/YouTuber
これまで、動画の撮影には高価な撮影機材や知識、優秀な撮影クルーが必要でした。そうしなければ動画や映像を撮影することなどできなかったのです。
しかし今は違います。
簡単な動画であれば携帯やスマホでも撮影ができ、そしてアプリ等で編集ができ、アップロードも可能になります。すべてが自分ひとりの「手のひらの中」で完結します。
そしてこのことは従来のビジネスを大きく変化させるほどのインパクトをもっていました。もちろん、簡単になったことによって、Youtuber という職業だけで生きていくというのは決して楽ではないということも調査の結果明らかになっています。
ユーチューバー、成功しても生活苦しい恐れ
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-02-28/P4UN9V6TTDSW01
個人利用から企業利用へ
このように誰もが簡単に動画を撮影できるようになると、当然それは個人レベルだけでなく企業レベルでも行われるようになります。
非常に安価な導入コストで、訴求力の高い動画を作ることができると気づいた企業は会社案内や導入事例、インタビュー、製品や商品の解説用の動画、製品の操作方法など、様々な種類の動画を作るようになりました。
動画による導入事例制作プラン
http://casestudy.trivector.co.jp/price_movie.html
具体的に考えてみましょう。
例えば、海外で撮影、制作された動画があります。
ビデオには CEO が登場し、今後の会社の戦略や方向性などを語っています。当然ながら日本支社をはじめとした各国の支社のスタッフにも同様のメッセージを届けなくてはなりません。
わずか 5分程度の動画ですが、理念の共有は非常に重要ですから、それらをしっかりと伝えなくてはなりません。さもないと、一丸となってビジネスを推進することはできないからです。しかし異なる言語のスタッフに CEO のメッセージを伝えるには、以下の 2つの方法しかありません。
ビデオの内容をしっかりと理解してもらうことが目的であり、そのためには上記のいずれかの方法を選択する必要があります。
具体的には、複数の国でビジネスを展開しているなら、多言語で字幕を入れるか、または多言語でナレーションを入れることになります。(ここで弊社の字幕翻訳プランやナレーションプランをご利用いただいております。字幕翻訳プランでは、英語のみならず、中国語や韓国語の字幕編集の対応も可能になりました)
http://www.trivector.co.jp/movie/points/
http://www.trivector.co.jp/movie/service/pricelist/
こうして企業は、これらのプランを活用しながら、自社のメッセージを内外に発信していきます。
https://www.trivector.co.jp/movie/result
映像翻訳と産業翻訳(実務翻訳)との融合が始まり、垣根が崩れるとき
上記にあげた例のように、一般企業が「字幕翻訳をやりたい」という流れが加速してきました。
顧客のニーズが、それまで「映像翻訳」と「産業翻訳」とを明確に分けていた垣根を崩しつつあるのです。
ところが、翻訳サービスを提供する側としては、そこだけに注目してはいけません。
「一般企業や個人が動画を自由に使えるようになってきた」という事実を見つめたときに本当に考えないといけないのは「映像翻訳」との違いを理解しておくことです。
そもそも翻訳業界は、産業翻訳、映像翻訳、出版翻訳に分けられます。
翻訳業界と翻訳会社
映像翻訳は、字幕翻訳などとも呼ばれますが、一番わかりやすいところだと映画の翻訳が象徴的です。
例えば、日本で作られた映画を世界中の人に見てもらうために多言語翻訳を行ったり、ハリウッド映画を日本語の字幕や音声ナレーションをつけたりする仕事です。
この場合、どちらも役者の台詞の意味を考え、決められた文字数の中で表現することが求められます。文字数がオーバーしてしまえば、画面が切り替わってしまい、字幕そのものの意味がなくなってしまうためです。
産業翻訳も文字数制限がないとは言いませんが、映像翻訳の方がはるかに厳しいでしょう。これらを踏まえて、映像翻訳や字幕翻訳と呼ばれる分野と、産業翻訳や実務翻訳との「境目」はどこにあるのかを検討してみたいと思います。
一般企業の意図とは
まず初めに、この流れの中で特に注意しなければならないのは、一般企業が「字幕をつけたい」といったときに、一体どういうものを「完成品」としてイメージしているのか?ということです。
業界人であれば、「映像翻訳はこういうもの、産業翻訳はこういうもの」という括りやルールを知っているので、実はこの 2つは似て非なるものだということが分かります。ところが、クライアントはそこまで知らないことが普通です。
「自社の動画に字幕を入れたい。きっと映画の翻訳みたいになるはずだ」
という完成イメージを持っている方が圧倒的に多いのです。(もしかしたら、翻訳関係の方もそう思う人がいるかもしれませんが・・・)
そしてこのギャップが、産業翻訳における字幕翻訳に対するクレームを生み出すことがあります。この違いを理解してもらうのはなかなか大変です。実際にはなかなかそこまで期待通りの形にはなりにくいからです。
「 映像翻訳の字幕翻訳」と「産業翻訳の字幕翻訳」の違いとは
通常、字幕翻訳といった場合、字幕は映像と一緒に表示されないといけないため、当然ながら文字数の制約を受けます。
例えば、日本語の場合、文字数制限は「1秒間に3文字~4文字以内」と言われています。
これ以上の文字数を入れて表示させたとしても、読みきれずに次の文章や画面に移ってしまうため、意味がありません。
どんなに素晴らしい文章であっても、観客に読まれなければ何も伝わりませんから、これは映画であろうが企業の紹介動画であろうが絶対のルールだと言えます。
では産業翻訳の字幕翻訳と映像翻訳の字幕翻訳では、いったい何が違うのでしょうか。
それは「求められる翻訳」です。
具体的には「もっと映画のセリフっぽく」とか「もっとこなれた日本語で」といった内容です。一般企業の担当者が上記に述べたように「映画のように翻訳される」と思っていれば当然の要求として出てくるのです。
しかし、産業翻訳(実務翻訳)では、それがなかなか難しい。
なぜ難しいのでしょうか?
誤解を恐れず言えば、映画では台詞の意味を理解して翻訳するために、情報の取捨選択を行います。そうしないと定められた文字数内に収まらないからです。
ところが企業の動画では、(勝手に)情報の取捨選択をした場合、それは「誤訳」や「訳抜け」と指摘される可能性があります。このギャップがお客様の期待を裏切ってしまうことがあります。
さらに、一般企業の作る動画というのは、映画のような作品ではありません。PR 用や説明資料のような何らかのはっきりとしたメッセージを持っているものです。映画とは違います。
つまり、その作品の意図を伝えたいわけではないので、解釈が異なり、企業ごと、担当者ごとに「訴えたいポイント」が違うことがあります。そのために(ある意味)翻訳作業時に勝手に文章を丸めたり、縮めたり、付け足したり、端折ったりすることはできません。原文にある情報を過不足なく翻訳しなければならないのです。観客の解釈に伝えたいことを委ねるということではありません。
しかし、それを知らないお客様の方が多いでしょう。
「もっと短くしてほしい」
「もっと日本語っぽくしてほしい」
こういったリクエストと実態がかけ離れてしまうのは、取り扱っているのものがあくまで産業翻訳や実務翻訳においての「字幕の翻訳」であり「字幕の編集」だからです。
お客様が想像する「字幕編集」や「字幕翻訳」は映画の字幕なのです。
ここに、「映像翻訳の字幕翻訳」と「産業翻訳の字幕翻訳」の違いが明確に出てしまいます。
翻訳者リソースの問題
また一方で、翻訳者リソースの問題もあります。以下は、極端な例ではありますが、理解しやすくするために二分します。
- 映像翻訳者は一般企業の求める字幕翻訳はできるのでしょうか?
映画の会話や台詞を翻訳するスキルはあっても、もし製品の紹介動画なら、専門知識が必要な場合もありますし、独自の判断で内容を端折ってもいいのでしょうか?
- 産業翻訳者は一般企業の求める字幕翻訳はできるのでしょうか?
今度は逆に、産業翻訳者は翻訳はできても、映画や映像のように(できる限り)日本語を短く表現したり、文字数制限に対応することができるのでしょうか?
では、一般企業や個人が作成する動画に字幕をつけたいと思ったとき、どちらの翻訳者がよりスムースに対応できるのでしょうか?そもそも、そこに明確な回答はあるのでしょうか?
明確な線引きは難しいかもしれませんが、何らかの棲み分けが必要になるように思われます。
大切なことは「目的」を見失わないこと
いかがでしょうか。
これらの違いを一般企業のみならず、翻訳会社も理解しなければなりません。そして当然ながらクライアントに説明する必要があります。結局のところ、動画を使用する目的が異なるためにこのような問題が起きるのです。
映像翻訳は、作品そのものを取り扱っています。映画なら作品それ自体が一人歩きしていきます。
ですからきっちりと訳文を作り、自分たちの手を離れても誤解を生むことなく「伝わる」ものではなくてはなりません。また観客の解釈に委ねるという部分も大きいでしょう。
そのため、字幕もナレーションも同じ機能を持たなくてはなりません。
一方で、一般企業の動画は、あくまでコミュニケーションツールです。この動画そのものを販売するのではなく(そういうケースもあるかもしれませんが)、商品や製品を販売するための、または社員に大切なメッセージを伝えるための補助的なツールです。
つまり、クライアントの「ニーズありき」になるため、毎回求められる仕様もバラバラになります。
そして目的が違っていればやり方も変わりますし、リソースもプロセスも変わります。
目的を失わずに字幕翻訳を行い、字幕翻訳を行うことが大切です。
- 映像翻訳、映画の翻訳レベルの品質を求めるのか(映像翻訳としての字幕翻訳なのか)
- 動画を活用できるレベルの翻訳を求めるのか(産業翻訳としての字幕翻訳なのか)
これによって発注先も翻訳者リソースも変わります。大切なのは「何のためにそれをするのか」という目的を失わないことです。やみくもに映画っぽさを求めるのではなく、目的をもった動画の制作や動画の編集、字幕翻訳などを行うべきではないでしょうか。
なお、弊社ではこれまで述べてきたことをしっかりと説明し、ご理解いただいた上でご発注をいただいております。
https://www.trivector.co.jp/movie/result
誤解されがちですが、産業翻訳の翻訳品質が映像翻訳より劣るとか、またはその逆があるということはありません。単純比較できないものだからこそ、お客様が勘違いされたりするので、私たちのしっかりとした説明が必要なのです。
※本記事はあくまで現時点での見解であり、ご自身の責任においてご理解ください。
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